駅で目にしたなんとなくいい風景。
「車掌のミス」
四ツ谷駅は19時。
小ぶりのリュックを背負った小学生が、ゆさゆさと中央線のホームに歩いてきた。1番線にはオレンジ色の中央線快速電車、東京行きが止まっている。
出発前の、ホームの安全確認をしていた私は、不意を突かれた。
「この電車市ヶ谷まで行きますか」
少年の高い声に呼ばれた。
安全確認の姿勢のまま、思わず聞き返す。
「えっ?なんて?」
「市ヶ谷まで、行きますか?」
ちょっと声が大きくなった。
声変わり前独特のかすれた声だ。
さて、快速電車は市ヶ谷には止まらない。
「あっこれね、止まらないから。2番線。」
少年は、こく、頷くと、ゆさゆさとリュックを弾ませながら歩き出した。
快速電車の、ドアが閉まる。発車オーライ。
そこで、はたと気づく。
総武線は3番線だ。
ついうっかり、間違えた話を教えてしまった。
電車が滑り出す。
少し前を行く、ゆさゆさと揺れるリュックに、
「おーい」と声をかけ、
振り向いた顔に向かって声をかける。
「間違えた。3番線だ!向こうのホーム!」
すれ違いざま、手振りで「3」「向こう」と指しながら話しかけた。
少年は、もう一度こく、と頷くと、ゆさゆさと歩いて行った。