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DRILLOOOON!!!!

だいたい1000字くらいで20歳の夏の思い出を書き溜めます。

世の中、ずるいやつばかり。

連続短編煎餅小説 テンピボス - 第1話「インスピレイト・ドライ・ソング」前編

短編

何か腐ってるのか?と疑うくらいにはひどい臭いがした。

雨の日の地下鉄の空気は最悪だ。

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正真正銘、腐った目をしたサラリーマンの連中が汗だくになりながら一生懸命にスマートフォンを覗き込んでいる。そこに自分の居場所を求めるかのように、自分が「この世」という舞台の演者であることを確認するかのように、その目はマルチタッチの液晶パネルに食らいついていた。

 

 

俺はそんなおっさんたちの間でずっとしかめつらをしている女を見つけた。

かわいそうだ、と思う。

何もこんな日にこんな時間のこんな地下鉄のこんな車両に乗っておっさんたちの間に挟まって揺られる「いわれ」なんて彼女にはないだろう。

 

ま、そんなことは考えたって時間の無駄だ。

おっさんたちだって好き好んで「おっさん」を演じているわけではないのだろうし、あの女も好き好んで挟まったわけじゃない。スマートフォンの下品な光も、腐った目も、おぞましい湿気をたっぷり含んだ空気も、けなげに頑張るエアコンも、すべてが自然体。オールオッケー。

 

俺は特に苦労もせずに始発駅で獲得した「座席」にふんぞり返ると、この後の「仕事」について考えた。

 

ふむ。いろいろと面倒くさいことになっているーー。

まず「能力」を使った喧嘩が一件。それに関連すると思われる盗難事件が二件。最後にその「盗難物」を使って行われたと思われる建物の損壊事件が一件。

 

「好き好んでこうしてるわけじゃないんだけど、これが自然体なんだよなァ」

 

捜査に最適化された自分の体のことを思い、一つため息をついたのとほとんど同時に、地下鉄は俺の目的地である主要駅についた。

その鉄の身体は、俺なんかとは比べ物にならないくらい大きなため息を吐き、腐った空気と腐った人間たち(俺を含む)を吐き出す。一呼吸も置かないうちに、出て行ったのとほとんど変わらない人間たちがドヤドヤ乗り込んでいった。

 

ちら、と振り返ると、さっきおっさんの間に挟まっていた女が俺の座っていた席にちゃっかり座っているのが見えた。よかったな。

 

階段をやや駆け足で登りだした時に、俺を呼ぶ声が聞こえた。

「鴻島さん」

出鼻をくじかれた思いで足を止めて振り返ると、奴がいた。

「やや遅刻です」

「そうかよ」

5年ぶりに顔を見た相棒と、5年ぶりのやり取りをしても特に懐かしいとも思わないのはなんでだろうな。

「行くぞ、十野」

地下鉄の長い階段を、俺は足早に登っていく。これがクセなのだ。鴻島は黙ってついてきた。5年前と何も変わってはいなかった。このやり取りも、腐った空気も。

 

続く